東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)270号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告らが主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 本願発明の構成について
(一) 根絡み座布団状土付苗群を育成して、直接単位苗を分離取出すことについて
成立に争いのない甲第九号証によれば、第二引用例には、苗箱に中仕切り等を設けないで床土を詰めて散播・播種して育苗する技術が詳細に紹介され、その苗は、箱のまま水田に配置してザルその他小型の入れ物に入れて田植するものとされているので、根絡み座布団状土付苗群を育成することが示されており、そこから直接単位苗を分離取出すことができるものということができる。そして、かかる室内育苗は苗が一定にセツトされているので田植機との結合が容易であるとして、機械装置を用いる機械植えへの適用を可能なものとしている。
また成立に争いのない甲第八号証によれば、第一引用例には、根洗苗であるとしても、苗箱に収容された苗群から「一回の苗植えに必要な量」を分離して取出す装置が記載されている。
したがつて、根絡み座布団状苗群を育成して機械装置を用いる機械植えとして、直接単位を分離取出す構成は、第一引用例及び第二引用例の技術から容易に推考できるものであつて、審決がこの点を看過したとはいえない。
(二) 三つの面に当接させて前面部を土部を基準として横方向に順次切取ることについて
弁論の全趣旨によれば、一般に根洗苗を含め田植機で植付けする苗は茎や葉の部分よりも根の部分の方が横方向に嵩張るものであり、そして前掲甲第八号証によれば、第一引用例に示された田植機のフレーム1に横設された受板9、10に架載された苗箱8は、その左右に側壁があり、前側に整理板11が設けられているので、苗箱8に苗群を載置すると、苗群の根部は前記三つの面に当接されるものである。そして、最前部の整理板11に当接した苗は、この整理板11に従つて横方向に移動するものであり、一段又は数段に設けられた苗規正片15によつて横倒れや横移動が防止されているので、一株分の苗が欠載部12から取出された後、次の取出しまで崩れたり倒れたりすることなく移動し順次取出されるものである。
そして、前掲甲第九号証によれば第二引用例には座布団状土付苗群を箱のまま水田に配置して土付苗のまま切断して田植をすることができること、この座布団状土付苗群を箱のまま田植機に装填して植付けることが可能である旨記載されているので、この機械植えの場合にも当然土付苗を切取ることが前提とされているものといわねばならない。
したがつて、三つの面に当接させて前面部を土部を基準として横方向に順次切り取ることは、第一引用例及び第二引用例から当業者が容易に考えられることであり、審決がこの点を看過したものとはいえない。
(三) 上方から切込んで切離しと同時に保持して土付苗を植付けることについて
前掲甲第八号証によると、第一引用例には苗挟片7により苗の根部に対して上方から切込み、苗群から切離しと同時に挟持すなわち保持して植付けることが記載されている。そうして、第一引用例においては、苗規正片15を列設して苗が横倒れや横移動することを防ぐようになつており、また苗挟片7が苗を挟持するとの作用からして、ここで対象となつているのは根洗苗であると認められるが、前記認定のように第二引用例に示された根絡み座布団状土群を第一引用例のような田植機に適用載置することも容易に考えられることであり、かつ、右のように上方から切込み、切離しと同時に保持して土付苗を植付けるようにすることもまた当業者であれば容易に実施できることであるから、審決がこの点を看過したとはいえない。
(四) 苗群相互の相対関係が終始一定に確定された苗群から順次ジグザグ経路なる確定経路部分に沿つて、順次確定的に単位土付苗を切離すことについて
成立に争いのない甲第三号証、第七号証及び前掲甲第八号証、第九号証によると、前記認定のように第一引用例のものは、根洗苗であつても苗規正片15によつて横方向の苗の崩れを阻止して苗群相互の相対関係をほぼ確定しながら左右に往復して単位苗をジグザグ経路に沿つて順次ほぼ確定的に切離し取出しているものであり、またかかる田植機械に第二引用例に示された根絡み座布団状土付苗群を適用することも前記認定のように容易に考えられることであるから、本願発明と同様な程度の確定度によつて苗群相互の相対関係を終始一定にした苗群から順次ジグザグ経路なる確定経路部分に沿つて順次に単位土付苗を切離すことは、第一引用例及び第二引用例から当業者が容易に構成できることであつて、審決にこの点の看過はない。
2 本願発明の作用効果について
前掲甲第三号証、第七号証ないし第九号証及び前記各認定事実によつて原告らが主張する作用効果について検討すると、次のとおり認められる。
すなわち先ず、原告らが主張する(一)の(1)及び(二)の効果は、中仕切りを設けていない方形状の座布団状土付苗群がもたらす作用であり、この作用効果は第二引用例に示された座布団状土付苗群も当然そなえているものであるから、これから容易に予測できるところであり、格別のものとはいえない。
次に、原告らが主張する(一)の(2)及び(3)の効果は、植付爪を有する田植機で土付苗を植付けることにより奏する作用効果であるから、第一引用例のような田植機に第二引用例に示された座布団状土付苗群を適用して土付苗を植付けることによつて生ずる第一引用例及び第二引用例のものから容易に予測することができる効果の範囲内に過ぎないから、格別のものとすることはできない。
また、原告らが主張する(三)の効果は、土付苗群全体を苗載せ枠3の左右両側辺6、6と前側の固定枠7とにより床土部分を介して位置規正をすることにより生ずるものであるが、第一引用例のものが苗箱8に苗を載置すると苗箱8の左右の側壁と前側の整理板11に根の部分が当接して位置が規正される構造を持つから、これに第二引用例を適用して苗箱8に座布団状土付苗を載置すれば、当然苗規正片15を要することなく、左右の側壁と前側の整理板11により床土部分を介して位置規正をするようになるものであつて、第一引用例及び第二引用例から予測できる程度の作用効果であるから格別のものともいえない。
さらに、原告ら主張(四)の(1)ないし(3)の効果は、田植機で座布団状土付苗を植付けるようにしたことにより奏する作用効果であるから、前記認定のように、第一引用例の田植機に第二引用例の座布団状土付苗群を適用して土付苗を植付けるようにすることによつて奏する作用効果と異なるものでなく、予測できる範囲をでないから格別のものとはいえない。
さらにまた、原告ら主張(五)の効果は、座布団状土付苗群を単位苗取出植付爪で切込んで単位土付苗を切離して取出し植付けることにより奏する作用効果であるが、第二引用例の座布団状土付苗群を第一引用例の田植機に装填し、当然必要な単位土付苗の切断を行つて植付けるようにした作用効果と異なるものではなく、予想できるものというほかなく、格別のものではない。
そして、原告ら主張(六)の効果は、帯状土付苗に比較した座布団状土付苗の優れた点をあげているものであるが、この作用効果は第二引用例に示されている中間仕切りを設けていない座布団状土付苗が奏する育成と植付け作業にもたらすものと異なるものではなく、これから当然予測できるものに過ぎない。
そうすると、原告らが作用効果として主張することは、何れも第一引用例及び第二引用例から予測できる程度のものであつて、審決がその顕著さを看過したものとはなし難いところである。
三 そうすると、原告らの主張はいずれも認めるに由なく、本件審決を違法としてその取消を求める本訴請求は、失当として棄却するのほかはない。
〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和四二年三月一四日、名称を「土付苗育苗植付方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願した(昭和四二年特許願第一六二〇一号)が、昭和四六年一二月九日拒絶査定がされたので、昭和四七年二月二二日審判の請求をし、昭和四七年審判第八二一号事件として審理され、その間、昭和五〇年一〇月一八日出願公告された(昭和五〇年特許出願公告第三二二〇三号)。これに対し特許異議の申立がされ、昭和五五年八月八日、右特許異議の申立は理由があるものとする決定と共に、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年同月二〇日原告らに送達された。
二 本願発明の要旨
中間仕切りを設けていない縦横一定の大きさを有する方形状の薄い床土を形成し、この床土上面に多量の種子をばら播いて、種子が発芽して苗が成長した後、この苗の根毛が前記床土全体に繁茂して全体が座布団状になつた土付苗群を育成し、この座布団土付苗群を、左右に側壁を有し前側面を開放した田植機の苗載せ枠に載置し、この苗載せ枠の左右両側壁と苗載せ枠の前側面開放部に面して苗載せ枠の往復横移動の全長にわたつて設けた固定枠とに座布団状土付苗群の床土部の左右及び前側の三面を当接させて苗載せ枠を横方向に往復移動することにより、座布団状土付苗群を横移動させると共に、この横移動に連動して上下作動する単位苗取出植付爪を固定枠に設けた苗挟出し用切欠部の上方から通過させて苗挟出し用切欠部に位置する座布団状土付苗群の土付部に切り込ませ、もつて一定の大きさを有する単位苗を苗取出植付爪で土付のまま切離し、この切離した単位苗の土部分を切離しと同時に保持し、そのまま下降して下方の泥土面に突入して単位苗を植付け、そして座布団状土付苗群の連続横移動と苗取出植付爪の上下運動の連続作動によつて座布団状土付苗の前側一定幅を単位苗取出植付爪によつて切取つた後、座布団状土付苗を反対方向に横移動させ、これを繰返しながら苗を植付けるようにした土付苗育苗植付方法。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面
(一) 本願発明
<省略>